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main story

​五、

 花観月は、妖怪のための和菓子屋さんの子でした。

 明るく、手際も愛想もいいので、大人たちからの信頼も厚く、将来はお父さんの跡を継いで店主になることが決まっていました。

 ですから、うまく力が使えず、話すこともまだあまり得意ではなかった子狐の頃の白珠玉にとっては、憧れの存在でした。

 

 当時の白珠玉は極度の人見知りで、いつも子供たちの遊んでいるのを遠くから眺めているような子でした。

 そのうえ、白珠玉は白狐の中でも非常に優秀なことで有名な立派な家の子でしたから、周りの子も声をかけづらかったのでしょう。

 けれど、ひとりぼっちで居たところに、いつも話しかけてくれる男の子がおりました。それが花観月だったのです。

 

 「遊ばなくっていいの?」

 

 彼は、白珠玉よりも少しだけ年上の、綺麗なイタチの男の子でした。白珠玉のとなりにそっと座ると、彼は優しく話しかけてくれました。

 

 「……いい。ぼくが入るとみんな遊ぶのやめちゃうもん」

 「酷いことするね……まぁ、自分も同じようなものだけど」

 「どうして?大人からあんなに好かれてるのに」

 

 白珠玉は、不思議そうに尋ねました。

 

 「ほら、……僕は東京から来てるから。あの子たちにとっては余所者なんだよ」

 「ふぅん、変なの」

 

 花観月の実家は、ここから遠く離れた東京にあります。母親の出身がこちらのようで、その手伝いをしに来ているのだと言います。

 言葉遣いも文化も、地方が違えば変わってしまうものです。それに、子供たちはそういった違いをまだあまり知らない分、異質に見えていたのでしょう。花観月も白珠玉と同じく、うまく周りになじむことが出来ずにいました。

 

 「……じゃあ、お揃いだね」

 「あはは、嫌なお揃いだけどね。……和菓子好き?父ちゃんから貰ったのがあるんだ」

 「貰っていいの?」

 「いいよ、ちょっとしかないから、皆には秘密だよ」

 

 こうして、二匹は一緒に居ることが増え、とても仲良しになりました。

 

 毎年、神有月になると再会を喜び、二匹は行動を共にしました。いろんな場所に出かけたり、お互いの泊っている場所に遊びに行ったり……。白珠玉も、彼の前では上手く話すことが出来るようになり、毎晩遅くまで話し込むことも少なくありませんでした。

 

 ——けれど、それはずっとは続きませんでした。

 

 もうすぐ白珠玉が狐たちの通う学校に通うことになる頃、それは彼がこうして出雲に連れてこられる最後の年の事でした。

 もう随分と長い付き合いになった二匹は、例年通り一緒に過ごしていました。

 すると、花観月がこんなことを言います。

 

 「……男なのにかわいいのが好きって、やっぱり変だと思う?」

 

 話を聞いてみると、なんでも彼は本当は、人間の女の子たちが好きなかわいいもの、クマのぬいぐるみやお人形、パステルカラーのかわいらしいお洋服が好きなんだと言うのです。

 

 彼はいつも、きちんと男の子らしい恰好をして、実家の和菓子屋さんの跡継ぎとしてふさわしいと思われる振る舞いをしていました。大人たちから期待されていた分、それを裏切りたくなかったのでしょう。

 

 花観月は、大の仲良しであった白珠玉だけに、自分の秘密を打ち明けてくれたのでした。

 

 確かによく見ると、彼の持ってきていた荷物には、ちいさなぬいぐるみマスコットやかわいらしいポーチが入っていました。彼なりに、自分の好きなものを否定したくなかったのでしょう。

 

 けれどこの時白珠玉は、彼にこう言ってしまいます。

 

 「やめた方がいいよ、変だよ。そんな子見たことないし……普通でいないと、バレたら絶対いじめられる」

 

 花観月は一瞬驚いた顔をすると、そうだよね、と悲しそうに笑いました。

 その次の日から最後の日まで、二匹は言葉を交わすことはありませんでした。花観月の旅行鞄についていた虹色のテディベアは、もうどこにも見えなくなっていました。

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