main story
四、
日本では、旧暦の十月のことを神無月と呼びます。
しかし、この出雲地方にかぎっては「神有月」と呼ぶのです。
それは、日本中の神様たちが大国主大神が祀られている「出雲大社」に集い、次の一年の人と人とのご縁を決めるからです。
他の地域からは神々は居なくなりますが、出雲地方では神々が集まります。それは、神に仕えるあやかしたちも同じでした。
仕える神々を支える神使たちが出雲地方に集まるのですから、彼らをもてなす妖怪たちも神有月の間は商い時です。
あやかしたちも各地から出雲地方に集まり、この期間のこの地域はとてもにぎやかでした。
「ほら、うちのママもパパも神有月の間はこっちの方で仕事があるだろ?おれも、まだ毛玉だった頃から一緒に連れてこられてたんだよね」
白珠玉の両親は、宇迦之御魂神に仕える狐の中でも、責任のある立場にいる狐です。白珠玉とは違って、もう尻尾も一つではありません。
ですから、神有月になると、神様たちの補佐役のお仕事に行く必要があったのです。
「おれはまだ神使でも何でもない仔狐だったから、親が仕事中は託児所に預けられてて……そこで毎年会ってた一つ年上の奴がいて……その頃は別の場所に住んでたんだけど、最近親の都合でこの辺にに引っ越してきたんだって。」
悲しそうな顔をして、白珠玉は昔話を始めました。
どうやら、神使の学校に入る前まで毎年一緒に遊ぶほど仲が良かったようです。けれど、今はもう話すこともなく、もう何年も会っていないというのです。
「……最後にあった時、何があったの……?」
「……おれがいけなかったんだ。あいつの事、きっとすごく傷つけた……みつ、聞いても怒らない?」
「怒らないよ、僕はタマの味方だもの」
黒魅津は優しそうに笑いました。
うつむいてしまった白珠玉は、少しだけ安心したように話を続けます。
「仲良くしてくれてた、イタチの男の子が居たんだ。……名前は、花観月」
——これは、随分と昔の、神有月のお話です。