main story
十五、
そのことがきっかけで、白珠玉は両親と比べられることに酷いトラウマを抱えるようになってしまったのです。そして、同級生の女の子たちや、親戚の女の子に酷い扱いを受けていたことで、彼は未だに女性と接することが怖いままなのでした。
「……まぁ、あんなことがあったんじゃびっくりしちゃうのも仕方ないよ」
少しだけ落ち着いた白珠玉を支えて歩きながら、黒魅津がそう言いました。
「でも、落ち着いたらまたちゃんとお話ししに行けたらいいよね、きっと話したら分かってくれるはずだよ」
ようやくお社に到着して黒魅津が玄関の扉を開けました。窓越しに、秋の虫たちの合唱が楽しげに響いています。それでも、白珠玉はうつむいたままでした。
タマ、と黒魅津が白珠玉の手を取ります。すると、白珠玉は泣きそうな声で言いました。
「……怖いんだ、傷つけるのが」
「……うん」
玄関の上がりに座り込んでぽつりぽつりと話し始める白珠玉の隣に、黒魅津が寄り添いました。
「……あいつは、何にも悪くないのに、おれの勝手な事情で、きっとまた傷つけた」
「……うん」
「それに、何が嫌って、花観月の事が怖い自分が嫌だ」
「……たしかに、雰囲気近かったかも。あの子たちに」
「でも、それって偏見だし……分かってるのに、でも」
今にも泣き出してしまいそうな白珠玉を黒魅津がそっと撫でました。すると、涙がこらえきれなくなったのか、白珠玉が黒魅津のストールに顔をうずめました。彼のふわふわの毛並みを梳いたまま、黒魅津はぎゅうと白珠玉を抱きしめました。
「タマ、大丈夫だよ……何かあったら僕が助けてあげる、って言ったでしょ。それに、無理やり連れて行って、ごめんね」
「みつは悪くないだろ……でも、ありがと」
「だって、僕たちは二匹で一対、でしょう?」
「……たしかに」
涙に濡れた顔でにこりと微笑む白珠玉を、疲れたろうからと寝台に寝かせると、黒魅津は「僕が何とかしなくちゃ」とつぶやきました。そして、まだあまり使いこなせていないスマートフォンを手に取ると、どこかに電話をかけ始めました。