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main story

​十六、

 時計の針の音が何回も何回もカチカチと音を立てたようで、それでも彼が動き出したのはそれからまもなくの事でした。

 店内の騒々しさが消え去ると、花観月はまるで何事も無かったかのように店の裏側に戻ろうとしました。

 「ミヅキ!」

 「……ごめん、作業に戻らしてもらうよ」

 「でも……!」

 「……いいんだよ、あの子もアイツらと同じで、変だと思ったって事だろう」

 翠葛は、陰に隠れたその表情を見ることは出来ませんでしたが、それでも彼が酷く傷ついていることだけはよく分かりました。

 「別に、そうならそうで構わないよ、アタシはアタシの理想の自分で居たいだけだし、誰にどう思われようとね」

 今は放って置いとくれ。そう言うと、彼は逃げるように暖簾の向こう側に行ってしまいました。

 翠葛には、花観月がどうしてこんな反応をするのかは分かっていました。彼は、今までずっと、彼自身の理想を貫くことで、伝統を重んじ、男らしさや女らしさを求める古く保守的なイタチの怪異たちから、その考え方やスタイルに眉を顰められているからです。そしてそれは、彼らに影響された周りの同年代の友人たちも同じでした。

 

 そんな格好誰もしてないよ。

 もっと普通になりなよ。

 

 そんな言葉を浴びせてきた過去の友人たちと同じく、白珠玉も自分のことを異常な存在として捉えたのだと、花観月は理解したのです。

 

 ……しかし、翠葛には、どうにも白珠玉が花観月を拒絶した理由がそれであるとは思えなかったのです。彼からは、そんな悪意を感じませんでした。

 何か、きっと他の理由がある。翠葛はそう強く思いました。それに、せっかく再会できた幼なじみとこのまま喧嘩別れになってしまうのは、少し寂しいような気がしました。

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