main story
十四、
そして、彼にとって辛かったのは、酷い扱いを受けていることを先生に相談しても、ニコニコしながら「気にしたら駄目よ」と言われてしまったことでした。
「女の子たちにそうやって構ってもらえるってことは気に入られてるのよ」
「でも、ああやって言われるのは、辛いんです」
「これくらい許してあげないと、立派な狐になれませんよ」
それだけ言うと、先生はどこかへ行ってしまいました。
……先生にもこんなことを言われてしまって、自分はどうしたらいいんだろう。
それからというものの、白珠玉はなかなか教室に行くことができなくなってしまいました。それに、大好きな両親のせいでいじめられているということをそのまま両親に伝える事は彼にはできませんでした。ですから、毎日学校に行っては、教室ではなく書庫に向かって、たくさんの本を読み漁っていました。
ですが、書庫での安全な日々は長くは続きませんでした。
白珠玉には、同じ時期に入学した親戚の女の子がおりました。彼女に、いつも書庫にこもっているのが見つかってしまったのです。
白珠玉は、心配をかけたくないからこのことは両親には伝えないでくれと言いました。すると、彼女は「条件がある」と言いました。
本家の一人息子で、血筋が認められている白珠玉を従えていれば、自分は周りの狐よりも優位に立てる。それに、自分が本家の籍に入ればいつか稲荷神様のおそばに行けるかもしれない。だから、自分と婚約して、言うことを全てに従いなさい、と。
それからというものの、白珠玉は常に彼女の後ろをついて回り、まるで執事のように彼女の「良い婚約者」を演じ続けました。彼女の機嫌を損ねないように、そして彼女の評判が落ちることの無いように。もし彼女の気に触れるようなことがあったら、放課後の誰も見ていないところで、ぶたれたり酷いことを言われました。そして、「ご両親と違って無能なお前に、血筋と母親譲りの顔以外なんの価値があるっていうの?」と、彼女は白珠玉に向かって怒鳴りつけるのです。
こんなことが親に知られたら、二人はとても悲しむでしょう。それを恐れて、白珠玉は何も言えなくなってしまいました。
そんな日々は、黒魅津が御祭神さまに連れられて神使の学校に入学してくるまで続いていました。