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main story
十二、
「タマ!待って!」
ごめんなさい、失礼します!と花観月と翠葛に声をかけて、黒魅津も店の外に飛び出しました。一心不乱に駆けていく白珠玉を、後ろから黒魅津が必死に追いかけます。橙色の商店街の真ん中を走り抜けていく2匹を、たくさんの妖怪たちが振り返りました。
人間界との境界まで残り少しというところで、追いついた黒魅津が白珠玉の肩を優しく捕まえました。
「タマ、大丈夫だから、一回落ち着こう?」
黒魅津は優しく彼に話しかけます。息を切らして上下する白珠玉の肩は、それとは別に、怯えたように震えていました。
彼の様子が明らかにおかしいことを気にして、黒魅津は白珠玉を人目のつかない(といってもここには人間などいませんが)路地の寂れたベンチにゆっくりと座らせます。
「この先にはお店が無いから誰も来ないはずだよ。……大丈夫?」
こくん、と白珠玉が力なく頷きました。しかし、彼が顔を上げることはありません。白珠玉の隣に腰掛けた黒魅津が、落ち着かせるようにその背中をゆっくりと撫でました。
黒魅津は、花観月が白珠玉に言った言葉を聞いていたので、彼が逃げ出した理由が分かっていました。俯いている白珠玉の手は、見て分かる程に震えています。
「……思い出しちゃった?」
「……うん」
「そっかぁ」
以前にも、白珠玉が両親の話を持ち出された時に辛そうな顔をしたことがありました。それには、きちんと訳があったのです。
まだ彼らが研修生として、神使になるための勉強をしていた頃のお話です。
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