main story
十一、
「……それで?今日はなんでアタシに?」
「あっ、いや、ママからこっち居るの聞いてたのに挨拶してなかったから、顔だけでも出そうと思って、それだけ!」
「……タマ!」
「う……」
自分が思っていたよりもずっと優しい態度の花観月に、白珠玉は言いたいことがうまく言えなくなってしまいました。それに、彼の恰好は昔自分が否定してしまったはずの、かわいらしいものでしたから、余計に戸惑ってしまったのでしょう。
「何だい、久々に会えたってのにそっけないねぇ、まさか忘れたなんて言うんじゃないだろうね?」
「お、覚えてるよ……覚えてる……」
問い詰めるように距離を詰めてきた花観月に、白珠玉は思わず後ずさってしまいます。
その時です。白珠玉の履いていたブーツのヒールが引っかかったのか、白珠玉はバランスを崩して尻もちをついてしまいました。
「いっ……!」
「タマ!大丈夫⁉」
「大丈夫、バランス崩しただけ……」
「ふふッ……」
不意に、花観月が白珠玉の事を見て笑い出しました。
「な、なんだよ!」
「いやっ……よく転ぶのは昔っから変わらないなぁと思ってねぇ……」
「なっ……!!そんな言うほど転んでなかったし!」
「いや、いっつもどこかにかさぶた作ってたろう!」
ケラケラと笑う花観月は、まるで昔のことなど無かったかのように明るい笑顔でした。白珠玉は、自分の言ったことが彼を縛っていたわけではないと分かりこっそりと安心しました。花観月は、白珠玉の手を取り彼を起き上がらせようとします。
——すると、花観月がこう言いました。
「全く、アンタのお母さんはしっかりしてて優秀なのに、アンタはどうしてこんなパッとしないんだろうねぇ」
その言葉を聞いた瞬間、白珠玉の顔から表情が消えました。
何かにおびえたような顔をして、彼の手が震えだします。そして、差し出された花観月の手をはねのけてしまいました。
「タマ!」
黒魅津が彼の名を呼ぶよりも早く、白珠玉は一目散に駆けだし、店から飛び出してしまいした。