main story
十、
「お待たせしてごめんなさい、今来ますから」
先ほどと同じように早足で戻ってきた翠葛が、二匹にそう伝えました。
「わざわざすみません、忙しくなかったかしら」
「お客様優先ですから!お気になさらず。それに、今の時間は特に忙しくないから安心してください」
「ありがとうございます……!……いつ頃からこちらに?」
「えっと、本当につい最近で……僕、付喪神なんですけど、本体を離れたばかりなんです。それで、ミヅキに拾ってもらって、ここに置いてもらってます」
「じゃあ生まれたばかりなんだ……おめでとうございます」
「あはは、ありがとうございます。えと……お二人は?」
「あ、僕たちは人間界の方で稲荷神社の神使狐を……」
その時、お店の裏からカラコロという下駄の音が聞こえました。
「アタシが花観月ですけど、お呼びですか?」
暖簾が細長い手でめくられると、明るい小豆色の着流しに、躑躅色のストールがひらりと揺れました。満月のように鮮やかな髪を片手で整えながら、華やかな少年が現れました。
「あ、ミヅキ!こちらの方たちがミヅキに会いに来られたって」
「……白珠玉?」
「え、」
先ほどまでは余所行きの、若旦那としての表情を崩さなかった彼——花観月が、白珠玉の姿を認めたとたんに表情を変えました。
「アンタ!曼殊沙華の白狐のところの白珠玉だろう!?何年ぶりだろうね、こっちにいるのは噂で聞いてたけどまさかまた会えるなんて思ってなかった!」
「え、あ、うん、久しぶり……」
一目散に白珠玉に駆け寄った花観月は、本当に嬉しそうに顔を綻ばせながら白珠玉の手を取りました。
「学校卒業して神使になったんだろう?母さんから聞いたよ!おめでとう、すごいじゃないか」
「あ、いや、そんな……」
思っていたのとは全く違う反応に、白珠玉も戸惑ってしまいました。それよりも何より驚いてしまったのは、彼の恰好でした。
昔は短かったはずの髪型は肩につかない程度のところまで伸ばされ、ヘアピンで止められていました。それに、遠目からでも分かるように、彼の顔にはまるで人間の女の子たちがするような、キラキラとしたお化粧が施されていたのです。