main story
二、
お社の下は暗く冷たい場所でした。稲荷神社の建物には、「狐穴」と呼ばれる穴が開いており、その中には人には見えない狐が住んでいると言われています。
もしこの狐穴を開けなかったら、そのお社は火事に見舞われるというのです。
さて、この城山稲荷神社にももちろん狐穴が開いています。中を覗いてみてもそこには何も見えないでしょう。それもそのはず、人間には見えないように術がかけられているのですから。
その狐穴を通ると、そこはまるで別の世界のように広い空間に繋がっています。そこには、二匹の若い狐が暮らしていました。
「ほらタマ、ご飯できるからゲームやめて」
「はーい……って、これは一体何料理……?」
「今日はしじみのクラムチャウダー味噌仕立てです」
二匹が食卓に着くと、優しい豆乳と味噌の香りがふわりと香ります。
向かい合っていただきますの挨拶をすると、今日も暖かい夕餉の時間の始まりです。
「……まああさりじゃなくてしじみだよなぁ、ここは」
「だって宍道湖のしじみ、本当においしいもの。どう?おいしい?」
「おいしい!」
城山稲荷神社の新しい神使狐である白珠玉と黒魅津は、お社での仕事以外の時間もこうして二匹で過ごしています。いつもであれば夕食時の話題は近くに咲いていた花や、堀川に現れる大きな白鷺、地域であった素敵な出来事についてですが、今日はいつもと違いました。
「ねえ、御祭神さまからの指令、どうしたらいいと思う?」
「どうするって、やるしかないだろ」
「それはもちろんそうなんだけれど……僕たち二匹じゃ少し不安じゃないかしらと思って。」
ご祭神様から任せられた任務は、「この街と、この街に伝わる怪談や不思議な話をたくさんの人に伝えること」。けれど、いざ手を付けようとなると何から始めたらいいのか二匹には見当も着かないのでした。