main story
一、
松江城の建つ亀田山の中には、3つの神社があります。そのうちの一つ、城山稲荷神社には、この春から新しくやってきた若い神使狐が住んでいました。松江の街を火難から守ると言う使命のもと、2匹はまだ未熟ながらも、日々一生懸命にお役目を果たしていました。
とある夏の終わりのある日の事です。今日もお城の周りの堀川では水鳥たちが集い、色とりどりの花が周りを彩っていました。身支度を済ませ、2匹が本殿へ向かうと、そこには2匹に宛てた御祭神様からの伝令が記された手紙が置いてありました。2匹はそっと手紙を開きます。
「この街の妖力が年々弱まっている。これも人々の間から不思議な存在を信じる心が薄まっているからだろう。」
これは大変なことです。神使狐である2匹のみならず、妖力は妖怪たち全てが生きるために必要な力です。これが尽きてしまえば、妖怪たちは生きる力を失い、すぐに消えてしまいます。
「このままではたくさんの妖怪たちが危険にさらされる。これをなんとかするために、お前たちに任務を与える」
2匹は顔を見合わせ、手紙の二枚目を読み始めます。
「松江に残る不思議な物語や不思議な存在を、たくさんの人に知ってもらうこと。そして、信じてくれる人を増やすためにも、まずは松江のことを知っている人を増やすこと。2匹では不安であれば、知り合いに協力を頼んでも良いから、協力してやってみなさい」
手紙はそこで終わっていました。二匹は手紙を前にしてふうとため息をつきます。
「なんだかとんでもない任務を任された気がする……」
手紙を閉じた白狐の白珠玉が、不安そうに対の黒狐の黒魅津の事を見ました。
黒魅津は不安そうな白珠玉の手を握って答えます。
「でも、せっかくお任せ頂いたんだから、なんとか期待に応えなくちゃ」
先輩や同級生たちから落ちこぼれと言われ続けてきた二匹は、こうしてご祭神様から期待をされていることにとても喜びました。しかし、本当に成し遂げられるか不安でもありました。なにしろ二匹は、まだ見習いの狐なのですから!
それでも、二匹には松江中の妖怪たちの命運がかかっています。やるしかありません。「怪談のまち」を守るため、二匹は立ち上がるのでした。